腔の読み 番外その1 腔腸動物
 腔腸動物はクラゲ、ヒドロ、サンゴの類ですがこれをこうちょうと呼ぶか、くうちょうと呼ぶかで重大な支障があるとは思えません(個人的感想)。更に腔腸動物(Coelenterata)は国際的な分類では無くなり、刺胞動物(Cnidaria)、有櫛動物(Ctenophora)に成ってしまっています(クラゲやサンゴがいなくなった訳では有りません)。 腔を使用する熟語の大半は医学用語であります。私は、医者仲間だけで通じる言葉として腔を使う気は毛頭無いし、腔を使うことで如何に患者さんに病状や治療内容が解ればと願っています。
歯科用語としての口腔(こうくう)は、現状では完全に定着し、平成4年に文部省編・学術用語集「歯学編」では、何の注釈もなく腔は総て“くう”で統一されています。一方、医学会でも基礎、臨床各分野毎に用語の検討が行なわれていますが、分野が多すぎて統一できないのが現状のようです。例えば、日本細菌学会は昭和54年に学会独自の用語集を刊行していますが、口腔を“こうこう”とふりがなを付けています。これは、昭和51年の文化庁編・言葉に関する問答集の見解、及び細菌学が直接人体そのものを対象としないため、“くう”に至る経過と其の影響を殆ど受けなかったことによると考えられます。
 戦後の国語改革で多くの漢字が字体を替えたり、読みを替えたり、使用を制限されてきました。明らかな誤用であっても国民に定着しているという理由で誤用が正しいとされた例もあります。文化庁発行の「ことば」シリーズ、言葉に関する問答集では、この様な例が多数挙げられています。腔の字も常用漢字に入れられていたら国語審議会も審議を尽くし“くう”と読むに至った経緯を理解した上で適確な判定を下したと思います。ところで、動物学ではいつ頃からクラゲ、珊瑚を腔腸動物と言うようになったのでしょう?私はこれも明治初期と思いますが、案外腔をくうとルビのある初学者向きの教科書がでてくるかもしれません。どなたか調べて下さい。

動物学でも、”くう”が正しいことが証明出来ました。大正・末、昭和の初めに出た「萬有科學大系・正編、第5巻、動物」の著者は、理学士・内田亮。大正12年に東京帝国大学理学部を卒業、卒業後東大に残り、学位を目指して研究、後進の指導のかたわら執筆したのがこの本です。この本では、「くうちょうどうぶつ」です。詳しくは、”くう”の読み最終部をどうぞ。

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